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第拾四話・珠簪。(三)

「大瑠璃、僕の言い分も聞いてくれ。仕事はいつ入ってくるかわからない不規則なものなんだ。そういうこともあって、自分のことで手一杯でね。気が付けばこの歳でいまだ独身だ。そして金は使い道がないまま貯まっていく一方で、どうすればいいか困っていたところだったんだ」  黙ったまま、そっぽを向く大瑠璃に、間宮は続けて自分の言い分を主張した。 「…………」  不規則な仕事。  果たして間宮はどんな仕事に就いているのか。金髪に縞柄の着物を着た雅な姿は人の目を惹く。そんな彼の容姿から考えてもまるっきり想像がつかない。  大瑠璃は眉を潜めた。  それにしても、眉目秀麗な間宮に婦人がいないとは驚いた。  だったら……もしかすると間宮なら自分を囲ってくれるかもしれない。  だって彼は自分の元に通い詰めているのだ。大瑠璃に気があるとそう考えるのが自然だろう。  胸に淡い期待が過ぎる。  しかし、間宮は家庭が築けないと言っただけだ。恋人がいないとは言っていない。  なにせ彼の容姿だ。こんなにもスタイルがいい上に、どんな相手をも思いやる心を忘れない優しい心根。その彼に恋人がいないなんて有り得ない。  間宮が普段、どのような仕事をしているのかは大瑠璃にはわからないが、仕事が一段落したら身を固めようとしているのかもしれない。  自分の元に登楼を果たすのは、好きな女性となかなか思うように過ごせず、その鬱憤を晴らすためという可能性もある。  娼妓なら、どんなに酷い抱き方をしてもどうということはない。相手を気遣わなくていい分、楽だ。彼は他のお客同様、そう思っているに違いない。

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