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第拾伍話・戯れごと。(一)

 ――茶色の屋根が目立つ料理茶屋の裏手は、大瑠璃(おおるり)が初めて間宮(まみや)と出会った思い出深い場所だ。  そしてここは早朝に登楼を終えたお客たちが朝粥を食べて帰る場所でもある。  今は昼時ということもあり、店内は静かだ。当然、お客も数えるほどしかいない。この茶屋にいる彼らもまた、間宮のように一日中登楼している身分の尊い人間だ。  間宮と大瑠璃は入口に近い四人掛け用の卓子に座ると、揃って粥を注文した。 「――――」  窓から差し掛かる柔らかな陽の光が心地好い。  太陽の光に照らされ、穏やかに流れる吉原の時間はこんなにも清々しい。自分たち娼妓がこの地でお客を取って疲弊するばかりの日常なんて考えられないほど平和だった。  けれど今の大瑠璃に限っては気を休めるどころではない。それというのも、愛おしい間宮の側にいるからだ。  おかげで大瑠璃の心臓は跳ねっぱなしだ。呼吸さえもままならない。  だから大瑠璃は顔を俯けて、膝の上に置いている拳をひたすら見つめていた。  それはすべて、恥ずかしい科白ばかりを吐いてくる間宮が悪い。 「美しい」だの、「可愛い」だのと彼は何かにつけて大瑠璃を賞賛するからたまらない。  当然、大瑠璃は娼妓だ。自分を賞賛する声は他のお客から散々言われている。けれども好いた人からの言葉は大瑠璃にとって特別なものになる。  おかげで大瑠璃は間宮の顔をまともに見ることができない。

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