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第拾七話・代役。(一)

 昼見世が始まる頃。大瑠璃(おおるり)は例によって楼主(ろうしゅ)に呼び出されていた。 「よく来てくれたね、大瑠璃。今夜も君にお客の相手をしてほしいんだ」  今夜、もしかするとまた間宮(まみや)登楼(とうろう)するかもしれない。  間宮にすっかり(はま)ってしまった大瑠璃は楼主の頼みを断りたい気持ちでいっぱいだった。けれども借金の肩代わりをしてくれた楼主への恩義もある。  ――自分は娼妓(しょうぎ)。身を売るのが仕事だ。楼主の頼みを断る権利なんてどこにもない。 「かまわない」  大瑠璃は渋々頷いた。 「すまないね、本当は金糸雀(かなりあ)にも頼むところだったんだが、風邪をひいてしまったらくてね。お客に風邪をうつしてはいけないから、今日は大事をとって休ませたんだ」  菌の方がどっかにいってしまいそうなくらい強気な金糸雀が風邪をひくなんて珍しい。  しかしこの気候なら仕方がないかもしれない。  楼主の肩越しから窓の外を覗くと、木枯らしが吹きすさぶどんよりとした灰色の空が見える。  それに、金糸雀には殆どと言っていいほど毎日登楼している栄がいる。彼にすっかり嵌っている金糸雀は浮かれていたようだし、健康管理が不足していたのだろう。  ――とはいうものの、それは大瑠璃も同じことだ。自分も金糸雀と同様、現を抜かし、他のお客を取らずに間宮を待つ日々を送っている。自分を棚に上げて金糸雀のことを責められない。 「先方がどうしても上位の娼妓をと言ってこちらの意見を聞き入れてくれないんだ。本来ならばここの御職(おしょく)を務める金糸雀に頼むのが筋なんだが、風邪ではどうにもできないし。先方はお二人でお越しくださる予定でね。大瑠璃一人では任せられないし……どうだろう。花鶏(あとり)も一緒に付かせては。花鶏なんだが、時期に水揚げをさせようと思っていてね、見学がてら頼みたいのだが――

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