114 / 153

第拾七話・代役。(二)

 花鶏が水揚(みずあ)――。  たしかに、花鶏が水揚げするならば上客である今回のお客が適任だ。  それに二人のお客を自分一人で相手にするのは難儀がかかる。それに初会はただの顔合わせに過ぎない。花鶏を参加させるならばまずは問題ないだろう。   花鶏には水揚げはまだ時期が早い気もするが、この花街では金糸雀に続く美妓はいない。  これは花街に売られた運命と思って受け入れるしかないことなのかもしれない。  けれどもせめて、純粋な花鶏を思いやってくれるお客と出会って欲しい。  間宮のような、優しいお客に……と大瑠璃は切実に願う。 「――わかりました」 「引き受けてくれて助かるよ。花鶏にはわたしから直に話そう。では頼んだよ」  はいと大瑠璃はもう一度頷くと部屋を出た。  実は、大瑠璃自身こういう状況が初めてというわけではなかった。  商売上、他の娼妓が体調を崩し、代わりに与えられた仕事をたった一人でこなすことも多々あった。今まで何度もそういう場面に出くわしたこともある。だから慣れているといえばそうなる。  どうやら楼主はそういった経験を考慮に入れた上で今回のお客を大瑠璃に委せようと決断したらしい。  もし、仮に今夜間宮が登楼してくれたならば、他の娼妓に言って間宮の傍にいてもらえるようにすればいい。  こうして楼主の願いを聞き入れることになった大瑠璃だが、結局その日、間宮は大瑠璃の元に登楼しなかった。  《第拾七話・代役。/完》

ともだちにシェアしよう!