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第拾九話・叶わない恋。(一)

 ――なんだろう。  まるで湯たんぽのようにあたたかなものが左の肩口に当たっている。  それは毛触りの良い、ふわふわした何かだった。  柔らかな毛並みが頬に触れてくすぐったい。  大瑠璃(おおるり)は閉ざした目を開けた。  左の肩口に目をやれば、以前に見たことのある白猫が小さな身体を丸めて眠っているではないか。  ――果たしてどこで見かけた貓だっただろう。  大瑠璃は首を傾げた。 「良かった、気が付いたのね。幸い弾は厚手の着物のおかげで心臓に辿り着くまでに至らなくて、処置も早かったから命に別状はなかったけれど、それでも一時は四十度近くの高熱も出たのよ?」  てっきりこの白猫と二人きりだと思っていた座敷には、どうやらもう一人いたらしい。  穏やかな春風にも似た声を持つ女性に話しかけられ、はっとした。  それにしても、ここはいったいどこだろう。  大瑠璃が見回すそこは六畳ほどの和室だった。  少なくともここは花街(はなまち)ではない。大瑠璃がそう思ったのは、花街は男遊郭(おとこゆうかく)で、女性は一人もいないからだ。  ここが花街でないとすれば、ここはいったいどこだろう。  どうも記憶が抜け落ちている気がする。  大瑠璃は女性に返事もしないまま、霞がかっている記憶を辿る。 「輝晃(てるあき)、もうすぐしたら戻ってくると思うわ。何か飲む?」  ――輝晃。それは大瑠璃の馴染みになった間宮 輝晃のことだろうか。そうなるとここは彼の家なのだろうか。  大瑠璃は上体を起こした。途端に右胸から全身にかけて激痛が走り抜けた。

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