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第拾九話・叶わない恋。(二)

 あまりの痛みで視界が回り、あらぬ方向に倒れてしまいそうになる。 「あまり動かない方がいいわ。熱は下がったけれど、それでも銃で撃たれたんだもの。安静にしておかなきゃ」  彼女の細い腕が倒れ込みそうになる大瑠璃の身体に伸びてくる。  おかげで大瑠璃と女性との距離がずっと近くなる。女性は美人だった。長い睫毛にふっくらとした赤い唇。活発そうな雰囲気をした栗色のショートボブ。肌は極め細かくて綺麗だ。  その彼女は大瑠璃の身体をそっと倒し、床に入るよう促しながら大きなため息をついた。 「輝晃ね、貴方を囲うって聞かなくて……ほんと困るわ」  女性はいったい何と言っただろう。  囲うとはどういうことなのか。  女性の話に付いていけない大瑠璃は、瞬きを繰り返した。そんな少しの動作でも、胸から全身に痛みが走る。  ――しかしこの痛みはいったい何なのか。  女性から視線を外し、痛みを訴える胸部を見下ろせば、薄紅色の長襦袢の下にしっかり巻かれた包帯が見えた。 『撃たれた』と、この女性は言った。  そこで大瑠璃が思い出したのは、楼主(ろうしゅ)から言い付けられ、接待したお客が実は麻薬密売人で、強姦されたこと。そして大瑠璃と金糸雀(かなりあ)の馴染みだった間宮(まみや)(さかえ)が刑事だったことだ。  こうして間宮や栄たち警察が百合の間に押し掛け、事件は終わるのかと思いきや、密売人の一人が暴走し、間宮に向けて撃ったこと――。大瑠璃は間宮を庇い、銃弾に撃たれたことを思い出した。

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