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第拾九話・叶わない恋。(三)

 ともすれば、まさかここは間宮の家で、この白猫は間宮が飼うことにした、あの茶屋裏にいた子猫だというのか。  自分は今、見知らぬ和室にいる。そして女性の口から聞かされた囲うという言葉。それらが意味するのはつまり、自分が寝ている間に身請(みう)けされたかもしれないということだ。  ならば、目の前にいるこの女性はいったい誰だろう。彼女は間宮のことを、『輝晃』と親しみを込めてそう呼んでいる。――ということは、答えはひとつしかない。間宮の恋人だ。  間宮はいったい何がしたいのだろう。恋人がいるにもかかわらず、娼妓(しょうぎ)を身請けするなんて常識から考えてもかなりずれている。  ――いや、面倒見がいい間宮なら有り得る話かもしれない。なにせ彼はとても情に脆い男だ。だから彼は自分を庇って傷ついた大瑠璃に同情したに違いない。  ああ、胸が痛い。  大瑠璃は間宮に恋をしている。好いた人の傍に居られるのは嬉しい。けれども彼は自分を憐れに思っただけだ。間宮のそこに大瑠璃への慕情はない。  ならば同情なんていらない。好きな人に同情されても嬉しくない。しかし自分は両親にさえも捨てられた人間だ。御曹司の間宮と対等になれるはずもない。  大瑠璃は突き付けられた現実に打ちひしがれた。  大瑠璃が項垂れていると、どこか遠くの方でドアが開く音がした。 「あ、輝晃が帰ってきたみたい」  女性は腰を上げ、部屋を出た。おそらくは間宮を出迎えに行ったに違いない。

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