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第六話・悲しい過去の痕跡。(六)

 男三人に陵辱され、ようやく解放されたのは朝が明けるほんの少し前だった。  花街に戻った大瑠璃は、当時御職争(おしょくあらそ)いをしていた金糸雀(かなりあ)と出会した。だからこの一件は、金糸雀と差配の守谷。そして楼主にしか知られていない。これらは過去に封印された出来事だった。  それからしばらくした後、風の噂で蘇芳が、とある令嬢と結婚したと聞かされた。  自分はなんと浅はかだったのか。  金さえ渡せば誰とでも寝る薄汚れた娼妓に、大金を出して身請けするなんて有り得ないことなのに……。  それなのに大瑠璃は身分もわきまえず蘇芳を信じてしまった。毎夜、蘇芳に抱かれる度、告げられた甘い言葉を鵜呑みにしてしまった。 『愛している』なんて科白はお客なら夜を共にする娼妓に言って当然だし、言われて当然だったのに……。  閨でのひとときを本気にした自分が愚かだった。  好きな人に囲われるという、けっして叶わない夢を見たのだから……。  好きだった人に裏切られた心も――。  見知らぬ男たち複数に蹂躙される身体も――。  すべてが穢らわしい。  後から聞いた話によると、蘇芳は根っからの博打好きだったらしい。両親に内緒で賭博の借金を抱えていたそうだ。ごろつきたちは敷居が高い花街の――それも御職の娼妓を抱くという条件に蘇芳から手を引と承諾したらしい。  すべては彼の計画通りだった。  大瑠璃を売った彼は見事華々しい世界へと飛び立った。

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