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第七話・三会目。(四)

 この花街(はなまち)では、動物を嫌うお客もいるので当然猫などの動物を飼ってはいけない決まりがある。――ともすれば、この鳴き声はいったいなんだろう。  そこで大瑠璃の脳裏にひとつの出来事が過ぎった。  それはほんの少し前――。  初めて間宮と出会った時のことだ。彼は茶屋裏で子猫と戯れていた。  まさか間宮が連れてきたのだろうか。  茶屋で拾ったあの子猫を……。  たしか、彼は初会で猫を飼うことにしたと言っていた。  しかしだからといって彼がこの花街に猫を連れてくる理由がさっぱりわからない。下手をすれば出入り禁止になってしまうのに、なぜ彼はそのような危険を冒したのか。 「…………」  大瑠璃はただただ瞬きを繰り返すばかりだ。すると間宮は懐に手を突っ込み、一匹の白い子猫を取り出した。  ああ、やはり。この子猫は忘れもしない、茶屋裏で見たあの猫だ。  ――とはいえ、毛並みは当時よりも整っていて見違えるほど綺麗になったし、なによりずっと健康そうだ。  呆気に取られ、瞬きばかりを繰り返す今の大瑠璃はさぞや間抜けな顔をしているだろう。  身動きひとつせず、ぽかんと開いたままの口に、湿り気を帯びた何かが触れた。  どうやら子猫が大瑠璃の唇を舐めたらしい。  半ば放心状態の大瑠璃を余所に、子猫は目を細め、もう一度可愛らしい声で、にゃあ、と鳴いた。 「君が悲しそうにしていたからね。そういう時に美しいものを見るのはとても心安らぐだろう?」  間宮が笑みを浮かべながら、大きく頷いて見せた。

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