「…………」 　自分は単純だろうか。子猫とこうしているだけで、胸の奥底で蜷局を巻いていたどす黒い感情が少しずつ剥がれ落ちていくような気がする。 　ほんの少し――。 　自分はまだ穢れきってはいないのだと思えてくる。 「君の微笑みはまるで天女だ。美しいね……」 　どうやら大瑠璃は知らないうちに口が緩んでいたらしい。 　お客に心を許してはいけない。 　笑顔を見せるなんてもっての外だ。 　自分に言い聞かせるものの、しかし大瑠璃の膝の上で今にも眠ってしまいそうな子猫が可愛い。 　暫くの間、大瑠璃が子猫の頭を撫でていると、間宮は何を思ったのか、大瑠璃の手から子猫を取り上げた。それから褥の端っこに子猫を置くと、寒くないようにと羽織っていた着物を被せた。それとほぼ同時――間宮の腕が伸びてきて、大瑠璃を捕らえた。 　緩やかに波打つはしばみ色の髪がはらりと褥に広がった。 　二本の腕が大瑠璃を閉じ込める。 　目の前には端正な顔をした彼が大瑠璃を見下ろしている。 「ま、みや……さま？」 　とくん、と心臓が大きく跳ねた。 「この猫、雄なんだよ」 　間宮の茶色い目が大瑠璃を捉える。その目は熱を孕み、真っ直ぐな眼差しで射貫く。 「……っつ」 　身体が熱い。 　大瑠璃は彼の視線に息が詰まりそうになった。 　こんな経験はもちろん初めてだ。今までにもこうしてたくさんのお客に組み敷かれてきたのに、間宮に見つめられただけで、こんなにも鼓動が脈打つ。蘇芳の時でさえも、こんなふうにはならなかったのに……。