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第九話・変化。(二)

 間宮は羽振りがとことんいいらしい。しかしいくら御曹司だとしても、立て続けにこんな大金を用意できる人間なんて今まで見たことも聞いたこともない。  果たして、間宮 輝晃という人物はいったいどこの大店の息子で、普段から何をしているのだろうか。  そうは思っても、大瑠璃は所詮、娼妓だ。金で買われた自分には何も知る権利はない。  ……もう勘違いしてはいけない。彼はお客だ。抱かれるそのたびに自分を褒め称えるのは一夜かぎりの身体の関係を求められているからであって、本当に好かれているからではない。  だから間宮が大瑠璃に貢ぎ続けた結果、破産してしまおうがどうなろうが自業自得。  もともと大瑠璃は金持ちの鼻を明かしたくてお客から揚代の他に御勤め品をせしめていたのだ。  彼を心配する義理は自分にはない。  自分たち娼妓を物のように扱うお客たちの鼻を明かしてやる。今となってはそれこそが大瑠璃の生き甲斐だ。毎日生きていくことがやっとで、必死に働いている自分たちを見下す人間にそれ以上の感情はいらない。  こうして大瑠璃は間宮と褥を共にするうちに生まれる罪悪感を打ち消し、間宮との一夜を過ごしていた。  ――時刻は午前八時。ここ吉原では、すべての郭に決められた一日の流れというものがある。  娼妓たちは八時までに朝食を終わらせ、昼見世が始まる正午までに身支度を調えなければならない。けれども大瑠璃はやはり、この日も寝過ごしてしまった。

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