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第九話・変化。(四)
「お前、最近、明るくなったよな」
金糸雀はいったい何を思ったのか、口を開くなり唐突にそう言った。
返事をどう返せばいいのかわからず無言のままでいる大瑠璃の眉間には深い皺が刻まれる。
「間宮様が原因じゃないのか? こんなに朝食が遅くなるの。聞くところによると、お前、最近昼見世に出ていないみたいじゃん? 夜、間宮様が連続で登楼されているんだろう?」
金糸雀は箸の先で大瑠璃を捉えた。
彼はいったい何を言い出すのか。
間宮が登楼しているという理由で自分が明るくなるはずがない。
もし、仮にそうだとしても、自分はただ、登楼代を貰えるから嬉しいだけであって、けっして間宮と会えるからではない。
「……いったい何の冗談だ。俺は別に輝晃様のことをそんな風に思ってない。嬉しいのは高額な揚代が貰えるっていう理由だけだ」
大瑠璃は大声を出し、自分が明るくなった理由だと考えられる事柄を早口で説明すれば、しかし金糸雀はにやりと笑った。
大きな目の奥に光が宿る。
「ふうん? 間宮様のこと、『輝晃様』って呼んでいるんだ?」
間宮に対する呼び方が変わっていることに気が付いた金糸雀は、にやにやと嫌な笑みを浮かべて茶化してくる。
「……っつ!」
膝の上で握っている手のひらは、なぜか汗ばむ。
大瑠璃はしまったと唇を噛みしめた。
それからふと思い直し、ふたたび金糸雀に面と向かって物をいう。
「別に、名前で呼ぶのなんて馴染みになったんだから普通だろう?」
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