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第九話・変化。(五)

 間宮は馴染みだ。娼妓なら誰だって親しみを込めて名を呼ぶのが慣わしだ。おかしなところなんてひとつもない。  そうは思うものの、しかしそこで大瑠璃はふと考えた。  果たして自分はそういう純な娼妓だっただろうか、と――。  たしかに、褥の上では聞き分けの良い娼妓を演じてはいる。けれどもお客が帰ってからは相手を罵ってばかりいた。況してや名前に、『様』を付けて呼ぶなんてもっての外だ。  蘇芳でさえも、下の名で呼んだことはなかった――。  自ら墓穴を掘ってしまった大瑠璃は強く唇を噛みしめた。 「たしかに馴染みになったなら名前を呼ぶのだって、名前の最後に様を付けるのだって普通だよな」 「……っ」  にやりと赤い唇が笑う。  金糸雀はうんうんと頷いて大瑠璃に賛同した。  けれども彼の本心は、普段とは違う様子の大瑠璃を見て楽しんでいるのだ。  すっかり調子が狂った大瑠璃は無言になってしまった。  金糸雀に勝てる気がしない。  大瑠璃は金糸雀から視線を逸らし、お椀に盛られたお粥と梅干しを見つめた。  大瑠璃にとって、間宮はただの金づるだ。下僕のように扱う自分たち娼妓の復讐相手にすぎない。  このまま間宮について話していると何かとんでもないことを発言してしまいそうだ。 「俺のことよりそっちはどうなの? 栄様だって毎夜登楼されているんだろう?」  すっかり落ち着きをなくした大瑠璃は、話題を金糸雀の馴染みになった栄へと変えることにした。

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