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第拾話・動揺。(二)

 いくらお客とはいっても、大瑠璃の馴染みだ。土左衛門(どざえもん)で上がってくればとてもではないが寝覚めが悪い。  いやしかし、お客は娼妓を買って閨を共にする。この吉原とはそういう場所だ。仮に間宮が身を持ち崩してしまったとしても、そうなるまで通い詰め、大瑠璃に貢いだ間宮のせいだ。自分が悪いわけではない。  それに、大瑠璃だって多少の手加減はしている。間宮から貰える登楼代が破格だったから、他のお客のように御勤め品を請求していない。  ――そもそも揚代だって勝手に向こうが金額を設定したのだ。大瑠璃が決めたわけでもない。間宮がどうなろうが自業自得だ。  けれども大瑠璃の脳裏には間宮が苦しみ悶える姿がちらついて仕方がない。  どうも落ち着かない。  お客には当然、家庭というものがある。仕事はもちろん、妻や子供だっているお客もいる。だから自分の元に通わなくなって二ヶ月も三ヶ月も空いたお客は何人も知っている。  それなのに、なぜだろう。たった四日、間宮の姿が見えないだけで狼狽(うろた)えてしまうのは――。  なぜだろう。これほど心苦しい気持ちになってしまうのは――。  大瑠璃はいよいよ狭い(くるわ)の中で閉じ籠もることが耐えられなくなった。  間宮が登楼しなくなってから五日目に当たるその日、気分を紛らわせるため、お客を取ることにした。

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