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第拾話・動揺。(四)

「大瑠璃……大瑠璃……」  慈しみも何もない中で何度も熱っぽく名を呼ばれる。  熱い楔が感じる箇所に触れる。執拗にそこを擦られれば、次第に痛みが麻痺していく……。 「……あっ」  前立腺を刺激された大瑠璃もやがて快楽の波に乗る。  ――その夜、お客のねっとりとした吐息を感じながら、大瑠璃はただひたすら快楽だけを求め、地獄のようなひと時が終わるのを願った。  手には、お客からせしめた豪華なべっこうの櫛を握りしめて……。  ――次の日も、その次の日もまた、間宮は登楼しない。  おかげで毎夜、不特定のお客に身体を開く日々が続いている。  夜見世での疲労が溜まっている大瑠璃は、昼見世に出る気を失っていた。彼は床の上に寝転び、陽の光に照らされるお客からせしめた美しいべっこうの櫛の数々を並べ、ただ眺めていた。 「大瑠璃様、大丈夫ですか?」  花鶏(あとり)が口を開いた。  いったい何のことだろう。  大瑠璃は心配そうに自分を見下ろす花鶏と視線を重ねた。 「とても顔色が優れないように見えたので……」  花鶏にずばりと言い当てられ、大瑠璃は言葉を失った。  お客に組み敷かれるのが苦痛だなんて娼妓失格だ。禿の花鶏にまで心配されるほど顔に出ているのだろうか。  もう少し上手く振る舞えるようにしなければ――と、拳をきつく握り、決意していると、花鶏はまた口を開いた。 「来られないですね、間宮様……」  花鶏の小さな口を突いて出た名前に、ほんの一瞬、大瑠璃の息が止まった。  彼の口からその名前が出てくるとは思いもしなかったからだ。

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