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第拾壱話・報い。(二)
疑ってかかるのは良くないことだ。相手がどんな容姿であれ、秋山は昔からの馴染み。当然、彼に無下なことはできない。
大瑠璃は彼の胸板に手を添えて、二階にある大瑠璃の閨へと案内した。それが誤りだと気が付いたのは、大瑠璃が褥と廊下を隔てるドアを閉めた直後だった。
今まで無言だった秋山だが、ふたりきりになった途端、態度が一変した。
彼は褥に向かって大瑠璃を乱暴に突き飛ばした。
悲鳴を上げる暇さえも与えられない。秋山は倒れ込んだ大瑠璃に跨ると細い首に手をかけた。
それはとても強い力だった。二本の腕が大瑠璃の首を絞め上げていく。
なぜ、と上に乗っている秋山を見ても彼は口元をへの字に曲げてこちらを見下ろすばかりだ。
瞳孔は開ききり、一点の輝きもない。
この目は知っている。
借金の過多で両親がやくざものに自分を売り飛ばす時に見た。汚い物を見るような、蔑んだ目だ。
いや、それだけではない。
血走った白目に引き結ばれた唇――。
虚ろだった表情が醜く歪んでいる。
秋山は明らかに憎悪を剥き出しにしていた。
「大瑠璃……おれはお前が憎い……。お前のせいで、先祖代々から受継いできた老舗が破産し、妻にも逃げられた。おれが路頭に迷い、何もかもを失ったのは全部お前のせいだ!!」
顔を真っ赤にして怒るその形相はまるで鬼だ。怒り狂う彼は歯を噛み締めながらそう言った。
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