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第拾壱話・報い。(四)
これまで大瑠璃は誰彼かまわず抱かれ続けた。たとえ穢れた身体になっても尚、懸命に生きてきた。それなのに――。
最後の最後はこうやって抱かれた相手に手をかけられ、死して逝くのだ……。
蘇芳にしてもそうだった。
我が身可愛さに大瑠璃を売った。
秋山も蘇芳 も……両親でさえも平気で大瑠璃を踏みつけ、越えていく――。
はらはらと涙袋から零れ落ちる雫が頬を濡らす。
胸が痛い。心臓が苦しい。泣き叫ぶことさえも許されない大瑠璃はただただ涙を流すしかできない。
どうやっても、どんなに意地を張って生きていても、結局、自分は奴隷にすぎない。
死した屍になって生きたところでこうやって止めを刺される。
誰も彼もが自分の存在を否定する。
辛い。悔しい。
「泣きたいのはおれの方だ!! お前のせいで――お前が生きているから悪いんだ。お前さえ、お前さえいなければ!!」
大瑠璃さえ、いなければ――。
秋山の言葉は大瑠璃の心を簡単に痛めつける。
首を絞める行為よりもずっと残酷だ。
こういう場面に直面しても、大瑠璃の脳裏に過ぎるのは間宮の姿だった。死ぬかもしれないという時に間宮を思い浮かべるなんて自分はどうかしている。
しかし、それも仕方がないことなのかもしれない。だって、身も心も穢れてしまった大瑠璃を唯一、思いやってくれたのは腹を痛めて生んでくれた母親でもなく一緒になろうと言ってくれた蘇芳でもない。間宮、ただひとりだったから……。
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