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第拾壱話・報い。(七)
「退け! そいつのせいでおれの一生がズタズタに引き裂かれたんだ!!」
秋山の容赦ない言葉が大瑠璃の心を萎縮させる。あたたかな体温に触れた身体はふたたび冷めていく……。悲しみという寂しさから、身体が小刻みに震えてしまう。
すると間宮は秋山の言葉を否定するように、いっそう強く大瑠璃を抱きしめてくれた。
「――もし、そうだとしても、ここは花街でこの子は娼妓。そして貴方は立派な大人だ。破産するまでうつつを抜かし、花街へ通い詰めた貴方の責任だと僕は思うが?」
「うるさい、うるさいうるさいうるさい!!」
妻も家庭も失い、精神的にボロボロになった秋山は、間宮の反論で怒りが爆発したらしい。彼は立ち上がると、懐からナイフを取り出した。
間宮を止めるためにやって来た娼妓が悲鳴を上げる。
娼妓の悲鳴ですっかり焚きつけられた秋山はもはや興奮状態に陥っている。ナイフを構えると、大瑠璃目掛けて突っ込んでくる。
間違いなく、今度こそ殺される。
大瑠璃は唇を噛みしめ、やがてやって来る激痛を覚悟して、強く目を閉ざした。
自分を抱きしめてくれた腕が消えた。
間宮は自分の傍から離れたのだ。
結局、自分はどうやってもひとりきり。
薄汚れた穢らわしい自分を誰も助けてはくれない。
そんなこと、もうとっくに知っているはずだったのに――。
間宮なら自分を助けてくれるかもしれないと期待してしまうなんてどうかしている。
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