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第拾壱話・報い。(九)
「放せ! はなせぇぇええっ!!」
引き千切れんばかりに首を振る秋山に、間宮は断固として意見を曲げず、静かに言った。
「こいつのせいだ……おれは悪くない、悪くないっ!!」
秋山は大人げなく怒鳴り散らす。
間宮に拘束された手からナイフが離れた。
「何事ですか、騒々しい!!」
娼妓が呼んだのか、静けさを取り戻しつつあるその場に、鋭い声が響いた。差配人の守谷 だ。
部屋の外を見れば、いつの間にか大瑠璃の部屋には人だかりができている。周囲は騒然としていた。
「いったいどういうことですか、これは!!」
駆けつけた守谷は、褥にうずくまる大瑠璃と、それから間宮に取り押さえられている秋山を交互に見た。
その後直ぐ、床に落ちているナイフに気が付いたらしい。彼は眼鏡のフレームを人差し指でついっと上げると、床の上で無造作に転がっているナイフを拾い上げた。
「大瑠璃、後で事情を聞きます」
守谷は好奇心で集まった野次を追い払い、項垂れる秋山を連れて行った。
大瑠璃は花街という吉原遊郭の中で敷居が高いこの郭で諍 いを起こした。おそらくは後に自分は体罰を受けるだろう。けれど今の大瑠璃にとって、体罰なんてどうでも良かった。
大瑠璃の中で間宮の存在がとても大きく感じられたから――。
「大瑠璃、大丈夫か?」
(輝晃さま……)
けっして届かないと思っていた間宮は助けに来てくれた。
それが何よりも嬉しい。
だから大瑠璃は手を伸ばし、広い背にしがみつく。
「……輝晃さま……」
「君が無事で良かった。もう大丈夫だよ」
涙する大瑠璃を、彼は抱きしめてくれる。
――ああ、もうこれだけで十分だ。
「……っひ」
声を上げて泣いた。
大丈夫、と何度も言い聞かせてくれる間宮の声を聞きながら――。
《第拾壱話・報い。・完》
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