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第拾弐話・こひごころ。(三)

 首を傾げると、「そういう仕草もね、本当に――……」と間宮は苦笑する。  果たして自分はいったいどういう仕草をしたのだろう。  口づけを交わしたわけでもなく、身体を重ねたわけでもない。ただ間宮を見つめただけだ。だから誘惑もしていない。  間宮の言葉のことごとくが理解できない。 「大瑠璃……」  低音のくぐもった間宮の声が大瑠璃のみぞおちに響く。 「――っ」  自分はいったいどうしてしまったのだろう。間宮に名を呼ばれただけなのに、心臓が跳ねた。 「本当に敵わない……」  もう一度、間宮はそう口にした。  苦笑する間宮の声音が大瑠璃の身体に熱をもたらしていく。これは身体が疼いている証拠だ。  あんなに嫌だった所作が、間宮が相手なら身体が自然と反応する。  それはきっと、彼がとても思いやりに溢れた優しい男性(ひと)だからだ。  彼は唯一、大瑠璃を人として扱ってくれた。  そんな男性だから――……。  有明行燈の照明がゆらゆらと揺れている。  静寂は嫌いだったはずなのに、間宮といると心地好い。  そうやって暫く間宮の腕に包まれている中、この部屋にやって来る足音がひとつ、聞こえた。  しっかりとした足音のこれは、おそらく差配人(さはいにん)守谷(もりや)のものだろう。  なにせ数時間前、自分はお客、秋山と(いさか)いを起こした。彼は大瑠璃を尋問するためにやって来たに違いない。  そして地下にある土壁に覆われた冷めたい折檻部屋に連れて行かれるだろう。  間宮に包まれてあたたかくなったはずの身体は芯から冷えていく――。  けれどもこれは自分が招いた結果だ。

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