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第拾弐話・こひごころ。(四)
大瑠璃はこれから与えられる処遇を想像して目を閉じた。
心も身体も冷たく、凍っていくのを感じる。
「大瑠璃、少しお話しがあります」
凜とした張りのある低い声がドア越しから聞こえた。
やはり守谷だ。静かだが彼の声は怒りが含まれている。
ノック音が大瑠璃を地獄へと誘う。
大瑠璃は間宮に気づかれないよう息を詰めると覚悟を決めた。間宮から離れ、ドアを開けた。
「間宮様、申し訳ございませんが本日はお引き取り願います。この子と少し話がありますので」
部屋に入るなり、守谷は大瑠璃を隣に座らせると正座をして間宮と向かい合い、腰を折った。
「それは秋山というお客のことか?」
守谷の言葉に間宮は眉間に深い皺を刻ませ、訊ねた。
「はい。大瑠璃の代わりに他の子をご用意しておりますので、そちらにお移りください。馴染みの件も白紙に戻させていただきます」
間宮が自分ではない娼妓を抱く。
守谷の言葉を聞いた瞬間、大瑠璃の胸がひどく痛んだ。
けれども彼にはこれ以上の迷惑はかけられない。
それに何より、間宮は秋山と取っ組み合いになった。自分と一緒にいると命を落としかねないと思ったはずだ。
こんな騒ぎを起こす面倒な娼妓を馴染みにしたがるわけがない。
間宮は守谷の提案を承諾するだろう。
彼が自分の元を去ると思えばじくじくと胸が痛む。
けれども何故、自分はこんなに間宮と離れるのが悲しいのだろう。
何故、自分以外の娼妓を抱くことが苦しいのだろう。
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