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第拾弐話・こひごころ。(五)

 ……わからない。  大瑠璃は自分と世界を切り離すために目を閉ざす。  やがてやってくるだろう、張り裂けそうな胸の痛みと、そして肉体的苦痛から目を逸らした。  寒い。  身も心も凍え死にそうだ。  大瑠璃は絶望の淵へと身を委ねた。  のだが――。 「――断る」  間宮は首を横に振った。  彼の返答は大瑠璃だけではなく、差配人の守谷すらも驚かせた。 「しかし!」 「秋山とのいざこざは僕も関わった。それに、話を聞いているとどうも非は秋山の方にあるように思えるが?」 「――たしかに。自分の末路を考えもせず郭に通い続けたのは彼の責任です。しかしこの子は――貴方も大瑠璃のお客なら噂を耳にしたことはあるでしょう? この子はお客に登楼代の他に多額な御勤め品を強請る娼妓です」  守谷の言葉に、ああ、と間宮は頷いた。それからふたたび口を開く。 「それでこの子を折檻するのか?」 「はい、いたしかたありません」  ――大瑠璃は膝の上で拳を握った。  冷たい監獄のような部屋に閉じ込められて何をされるのかは知っている。  この寒空の中、冷水を浴びせられ、鞭でこの身を打たれるのだ。一晩中、苦痛と激痛に耐えなければならない。  守谷からは二度三度とお客に無下なことをするなと注意を受けていたにも関わらず、いざこざを起こしたのだ。仕方がない。 「だったら尚のこと引き下がれないな」 「なっ!」 (――え?)  体罰からは逃れられないと諦めきっている中、間宮の言葉に驚きを隠せない。  大瑠璃が反射的に顔を上げれば、間宮は真剣な面持ちで守谷と向き合っていた。

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