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第拾弐話・こひごころ。(七)

 彼はお客。そして自分は娼妓。間宮が登楼するのなら身体をずっと開いておかなければならない。  だから悲しいと思ってはいけない。自分は結局、玩具にすぎないのだから……。  気を抜けば泣き叫びそうになる。だから大瑠璃は奥歯を噛みしめ、堪えた。  一枚、二枚と着物を脱いでいく……。  動かす指が震える。  玩具のように抱かれると思えば息が詰まる。  心が凍てつくように感じる。  それでもどうにか着物を脱ぎ去ると、ようやく緋色の長襦袢姿になった。 「大瑠璃?」  間宮は自分の身体を気に入ったと言った。  その言葉がこんなに心を苦しくさせるのは――何故?  せっかく引っ込んだ涙がまた、涙袋に溜まる。泣きたくなる。  それでも今は泣けない。  彼は自分の身体を欲している。  苦しい。  悲しい。  胸が痛い。  これでは折檻の方がまだ良い。身体だけを求められ、一晩中抱かれるのはあまりにも苦痛だ。  腰紐を解く指先が震える。  それでも大瑠璃は唇を噛みしめ、自分を叱咤する。  襦袢の共襟を広げて両肩を露わにさせた――時だった。 「大瑠璃! 今日はいいんだ。何もしなくともいいんだ……」  間宮によって華奢な身体がたくましい腕の中に引っ張り込まれた。 「輝晃さま!?」 「いいんだ、何もしなくていい……」  驚く大瑠璃をよそに、顔を上げる。  すると眉根を寄せて唇を噛みしめている間宮の姿が目に入った。その表情はとても苦しそうだ。  彼は娼妓を買う側の人間だ。それなのに、どうしてそんなに苦しそうにしているのだろう。

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