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第拾弐話・こひごころ。(八)

 優しい言葉や仕草に惑わされてはいけない。支払う金がなくなれば、間宮だって秋山のように自分を殺そうとするに決まっている。  しかし何故だろう。間宮は自分を貶めるような真似をしないと思うのは――。 「……大瑠璃」  名を呼ばれるたびに大瑠璃の心臓が跳ねる。  あんなに深い悲しみによって冷え切っていた身体が間宮に抱きしめられただけで息を吹き返す。  回された腕から熱が伝わり、発火しそうになる。  とくん、とくんと鼓動する心臓。  身を焦がすほどの狂おしい熱が宿る。  ――この意味は知っている。自分はまた、蘇芳の時のように、恋に落ちてしまったということだ。 (ああ、どうしよう。俺はまた――)  恋が芽生えたのはいったいいつだろう。  秋山に襲われた時だろうか。  ――いや、違う。もっとずっと前だ。  おそらくは、一目惚れ。子猫と戯れているその時に違いないだろう。  あの時、大瑠璃は過去の出来事と重ね、間宮を蘇芳として見ていた。  それは偏に、蘇芳のように恋心を抱く予兆があったからとも言える。  そして間宮が垣間見せる優しさも大瑠璃が惚れる原因だった。  間宮はいくら大瑠璃と逢瀬を重ねても態度は同じで、対等に扱い続けた。その結果、恋心は本人が自覚していない間に膨れ上がったのだ。  ――ああ、自分はまた、お客に恋心を抱いてしまった。  しかし敵わない恋なのは知っている。蘇芳の時のような勘違いはもうしない。  抱かれるだけでいい。それ以上を望んではいけないし、けっして叶わないことなのは知っている。

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