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第拾弐話・こひごころ。(九)
もう二度と身請けして貰おうだなんて高望みはしない。
今、間宮の傍に居られるなら、それだけで十分だ。
大瑠璃は芽生えてしまった恋心を胸に、深く目を閉ざす。
間宮は額に唇を落とした。
労わるようなその仕草に、胸が跳ねる。
『今日一日、ずっと登楼する』
間宮の申し出は嬉しい。しかし、丸一日登楼するとなると、かなりの金子が必要になってしまうのもたしかだ。さすがにそこまでは気が引ける。
それに、彼は大瑠璃の命を救ってくれた恩人だ。その彼に対して金を取るというのは罪悪感が残る。
「今日一日登楼するなんてダメだ……」
いくら馴染みになったとはいえ、お客には変わりない。間宮にそこまでさせられない。
いくら自分たち娼妓を玩具のように扱うお客が許せないとはいえ、他人の身を滅ぼしてまで貢がせる自分は、毛嫌いしているお客たちと変わらない。だから折檻されるのは当然だ。
「体罰だって慣れている。だから――」
「大瑠璃……いいんだよ。僕の身を案じてくれなくても大丈夫だから、ね?」
首を振る大瑠璃に、しかし間宮は笑みを浮かべるばかりだ。
「――っつ」
胸が苦しい。
好いた男性に優しくされて嬉しいはずなのに、胸が痛い。
(息が、できない――)
「さあ、疲れているだろう? 今日は僕がずっと君のそばにいるから、安心してもう少し眠りなさい」
「…………」
安心なんてできるわけがない。
自分が娼妓だということを忘れてはいけない。
間宮だって秋山と同じ立場だ。彼もきっと用立てる金子がなくなれば大瑠璃を恨み、殺そうとするかもしれない。
それなのに……。
大瑠璃は間宮に言われるがまま、目を閉ざしてしまった。
《第拾弐話・こひごころ。/完》
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