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第拾参話・想い隠して。(一)
時期に夜が明ける。
空が白じむ頃、小鳥の鳴き声で大瑠璃 はふと目を覚ました。
すぐ目の前には端正な顔立ちの間宮 がいる。
薄い唇は寝息を漏らしていた。
抱きしめてくれる力強い腕が背中に回っている。
『何もしない。安心しておやすみ』そう言った彼は言葉通り実行した。
こうして彼は大瑠璃に手を出さず、ずっと抱きしめてくれていたのだ。実感すると間宮への恋心がますます膨れ上がっていくのがわかる。
血の繋がりも何もないただのお客の彼は大瑠璃の身を案じてくれた。
一度慕情に気づいてしまえばもう抜け出せない。
「てる、あきさま……」
お願い。このまま、こうしていたい。
大瑠璃は願いを込めて彼の胸板に頬を寄せ、彼の名をそっと赤い唇に乗せた。
(……好き)
思いの丈を胸の内でそっと囁いてみる。
耳元で繰り返される心音が心地好い。
目を閉ざしてあたたかな体温に身を委ねていると、腰に回った腕の力がふいに強くなった。
「大瑠璃……君は本当に困った子だね」
はっとして顔を上げると、茶色い目が自分を見下ろしているではないか。
真っ直ぐ見つめられれば身体が反応する。
下肢に熱が集まってくるのを感じた。
「こんなに可愛く媚びられたら、君が責められるのも頷ける。続けざまに登楼してしまう秋山 の気持ちもほんの少しだがわかる気がするよ……」
顎を掬い取られ、視線が重なったと思った瞬間、薄い唇が大瑠璃の唇を塞いだ。
「んぅ……」
(輝晃様……)
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