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第拾参話・想い隠して。(三)

 もう一度、骨張った長い指が大瑠璃の顎を掬い上げた。――時だった。  ぎゅるるるる……。  突然、艶のあるその光景とは不似合いな音が空間を裂いた。情熱的なシーンをぶち壊したのは他でもない、大瑠璃の腹の虫だ。 「――っつ!」  なんという不始末をしでかしてしまったのだろう。今から彼に抱かれるというのに、それを台無しにした自分が憎たらしい。 (恥ずかしい!!)  途端に大瑠璃の身体は先ほどとは違う熱に襲われた。  間宮の後頭部に回していた両腕を離し、朱に染まった顔を覆う。  羞恥に襲われる大瑠璃だが、頬を染め、恥じらいを見せるその姿が男心を揺さぶることを本人は知らない。  大瑠璃はただただ身体を小刻みに震わせるばかりだ。 「大瑠璃、その仕草は……まったく君はなんて――そうか、そうだね。実は僕もお腹がペコペコなんだ」  先ほどの色香をまとった空気は大瑠璃の愚かな過ちによって一変する。  間宮の明るい笑い声が部屋中に響き渡った。 「――――」  間宮はやはり変わっている。  普通のお客ならば、大瑠璃が立てた腹の音を聞かなかった事にして己が欲望を優先するか、雰囲気が台無しになったと激昂するかのどちらかだ。  しかし彼は自分の欲望を押しつけもしなければ思い通りにならない事態に腹を立てたりもしない。  間宮は間違いなく大瑠璃を欲しているはずなのに、それでも自分の欲望を後回しにして、大瑠璃を優先してくれる。  彼はやはりとても優しく、寛容な男性だ。

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