88 / 153

第拾参話・想い隠して。 (四)

 間宮を知れば知るほど、もっとずっと好意を寄せてしまう。大瑠璃は底が見えないこの恋に落ちていくばかりだ。 「だったら今、食事の用意をしてもらうよう伝え……」  羞恥に襲われている大瑠璃は、なんとかこの場を凌ぐため、間宮から離れると緋色の長襦袢の上から着物を羽織る。 (えっと、帯……)  大瑠璃の頭は羞恥のあまり真っ白だ。すっかり慣れた着物を着るという行為が難しい。混乱した頭で思考を巡らせた。  褥の端に追いやられている帯紐へ手を伸ばす。  しかし、間宮は何を思ったのか、大瑠璃の手を遮った。大きな手が大瑠璃の手を掴む。 「待って待って、茶屋に行こう」 「…………?」  彼はいったい何を言い出すのだろうか。  間宮の思いがけない進言に、大瑠璃は眉根を寄せた。  大瑠璃が訝しがるのも無理はない。お客が登楼を果たし、日が高いうちから下心なしで、『娼妓と一緒にご飯』など、今まで聞いたことも見たこともないからだ。  まあ、たしかにここの御職の金糸雀ならば話はわかる。しかし大瑠璃は一般の娼妓にすぎない。いや、それよりもずっと立場が悪い。なにせ自分は、『金をせしめる娼妓』として有名だ。こんな娼妓と食事をしても楽しくはない――はずだ。  対等に扱ってくれる間宮の好意は嬉しい。けれど所詮、大瑠璃は身体を売るしかない汚れた存在だ。そんな人間と日中外に出て食事をしようものなら、間宮の名に傷がつく。これではかえって、間宮に迷惑がかかってしまう。

ともだちにシェアしよう!