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第拾伍話・戯れごと。(四)

 ちらりと蔓を横目で窺えば、彼女の頬は赤い。間宮への褒め言葉がお世辞ではないことは一目瞭然だ。  端正な顔立ちをした間宮をひと目見れば、誰だって心奪われる。だからこれ以上、間宮に近づかないでほしい。  大瑠璃は心密かに訴える。  なにせ間宮は大瑠璃の馴染み。浮気は御法度だ。  況してや郭を乗り換えるなんてとんでもない。自分以外に手を出すことはもちろん、目移りすることすら浮気になる。  ……そう、言いたいのに――。  痛む胸のおかげで口が閉じてしまう。 「うちのお客になりまへん? うちなら、うんとサービスしますえ?」  蔓は魅力的な身体をくねらせ、間宮を誘惑する。  大瑠璃とは違う女性の柔らかな肉体は男なら誰だって釘付けになる。  きっと間宮は彼女の蠱惑的な身体に魅了されているに違いない。  況してや彼女は金糸雀(かなりあ)クラスの美妓だ。彼女に誘われて拒むお客はまず、いない。  大瑠璃は唇を固く引き結び、俯き続ける。  ――気分は最悪だ。  なにせ、目の前で他の娼妓に自分のお客を奪われるのだから……。  けれども大瑠璃が間宮を非難する資格はない。  だって自分はお客を金づるにしている。  間宮は違うにしても、自分たち娼妓を物としてしか扱わない彼らにはほとほとうんざりしていた。  ――とはいえ、自分がした仕打ちを考えると間宮を責める権利はない。  やはり外に出るべきではなかった。  自分の身の程をよくよく知っておけば、こんなに悲しい場面に出会さずに済んだものを――。  朝餉を食べに茶屋までやって来たのがそもそもの間違いだ。それが今になって悔やまれる。

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