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第拾伍話・戯れごと。(五)
すっかり自分の居場所を失った大瑠璃は、肩を縮め、膝の上にある拳をより強く握った。
茶屋の中はじっとりとした嫌な空気が流れる。
――けれどもその空間はすぐに打ち消された。
「僕が誰に貢ごうと君たちには関係ないことだ」
口を開いたのはほかでもない、間宮だ。
間宮はぴしゃりと言ってのけた。
彼の腕が伸びてくる。
身を縮めて俯く大瑠璃の顎を掬い取った。差し出されたその手に導かれるまま、上を向けば……。
「んぅ……」
薄い唇が大瑠璃の口を塞いだ。
突然求められた口づけに大瑠璃は驚きを隠せない。空気を求めて開いた口の隙間から、ざらついた舌が侵入を果たす。
大瑠璃の舌を絡め取った。
間宮の舌が上顎をなぞり、歯列をなぞる。そしてまた、大瑠璃の舌が彼の舌によって絡め取った。
大瑠璃は娼妓。身体を開くのが仕事だ。
口づけなら他のお客にだって何度も経験している。
それなのに……。
初めてキスを知った少年のような気分だ。
とくん、とくん、と、心臓が大きく鼓動を繰り返している。
間宮との口づけは慣れることがない。
それだけではない。
間宮と口づけているたったそれだけで、大瑠璃の身体が熱を持ち、下肢が疼きはじめる。
「っふ……」
真っ昼間の茶屋に不似合いな水音が辺り一帯に響き渡る。
(輝晃様……)
大瑠璃はもたらされる口づけに夢中になった。
自らも舌を伸ばし、ざらついた舌を求め、絡める。
間宮もまた、大瑠璃を欲しているのだろう。口づけを緩める気配はない。それどころか口角を変えてよりいっそう深い口づけが与えられる。
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