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第拾伍話・戯れごと。(六)
大瑠璃は、間宮から与えられる快楽に染まっていくばかりだ――。
「ん、っふ……」
大瑠璃の唇の端からはどちらのものともつかない唾液が滴り落ちる。
深い口づけのおかげで大瑠璃の唇は赤く濡れそぼっていた。
(輝晃様、輝晃様……)
伏せ見がちな目を潤ませ、悩ましい声で喘ぐ大瑠璃の淫らな姿に、そこにいる茶屋の誰しもが釘付けだ。
けれども彼らの視線が一身に注がれていることを知らない大瑠璃は、ただひたすら赤い舌を伸ばし、間宮から与えられる口づけに酔いしれる。
大瑠璃にとって短いように思える間宮との口づけは、やがて終わりを告げた。
間宮が大瑠璃を解放したからだ。
「……あっ」
甘い責めから解放された大瑠璃の唇は、しかし彼を求め、短い嬌声を放った。
その声で羞恥が宿る。握っていた拳を解いた大瑠璃は濡れた唇に触れる。
蔓たちがいるだろうそこに視線を這わせる。
しかし茶屋に遊女たちの姿はなかった。
どうやら間宮が自分の思い通りにならないお客だと知った彼女たちは誘惑することを諦めて帰ったらしい。
代わりに、茶屋にいる人間の熱を帯びた視線が自分たち二人に集中している。
大瑠璃はたまらず、また膝の上で拳を作り、顔を俯けた。穴が空くほど木目模様の卓子を見つめ続ける。
「……ううん、やはり外に出るのは間違いだったかな。君の言うとおり花街で食べるべきだったかもしれない」
間宮はひとつ呻った。そして続ける。
「君の美しい姿を他人に見られたのは失態だ」
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