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第拾六話・やがて終わりを告げる関係を今だけは……。(八)
間宮は快楽で潤んだ大瑠璃の目尻へそっと口づける。
その優しい仕草に、込み上げていた涙が零れ落ちた。
彼は大瑠璃をただの性欲のはけ口として使わない。そう実感すればするほど、間宮への慕情が増していく……。
「大瑠璃……」
間宮は大瑠璃の耳元でぼそりと呟いた。
甘い吐息と混ざり合うその声が大瑠璃の耳孔を攻める。
間宮は大瑠璃を貪り、幾度となく抱く。
大瑠璃もまた、彼を欲して乱れに乱れる。
間宮の下で狂おしく舞った。
――障子窓の隙間から入ってくる柔らかな日差しとそよ風がとても心地好い。
大瑠璃がたくましい胸板に頬を擦り寄せれば、情事の後で汗ばんだ腕が大瑠璃を抱き締めてくれる。
力強い彼の腕の感触と荒い息遣い。
大瑠璃は目を閉ざし、間宮に抱かれた余韻を楽しむ。
紅を引いたその唇が孤を描き、大瑠璃は笑みを零した。
「一緒になろうか」
ようやく乱れた息が落ち着いてくる頃、間宮はそっと口にした。
耳に届いた彼の言葉――それが本当ならどんなに嬉しいことだろう。しかしこれははじめてではない。お客は大瑠璃を抱いた後、常にそうやって戯れ言を言う。思ってもいない科白を吐くのは場の空気に呑まれてしまうからだ。だからもう勘違いはしない。
間宮は御曹司。立派な家を継がなくてはならない。
そのためには嫡子がいるし、娼妓一人を囲うとなると世間体にも問題が生じる。
自分のような色ものを囲っていいわけがない。
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