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第拾八話・貴方のためなら死さえも厭わない。(二)

 しかし、どう見ても感じの良いお客ではないことはたしかだ。  この二人は大瑠璃がことごとく嫌うタイプだ。  ――さて、自分は今後、このお客たちと裏会までどのように駒を進めるべきか……。  大瑠璃は目の前にいるお客を観察しながら算段していく。  しかし、二人のお客は大瑠璃が思っていたよりもずっと質が悪かった。  本来、初会ならば厳かに進めなければならない。  ――にも関わらず、でっぷりとした体格のお客は、あろうことか大瑠璃に手を伸ばし、引き寄せたではないか。  このお客は今まで花街(はなまち)のような敷居の高い見世に通ったことがないのか。初会のしきたりをまるで無視をする。その傲慢な態度に、大瑠璃は顔をしかめた。  けれども彼らは楼主(ろうしゅ)に話を通している。――ということは、それなりに場数を踏んでいるのもたしかだ。  だとすると娼妓(しょうぎ)に容易く触れることを無作法だと知っていて、このような真似をしているのか。  大瑠璃はお客の行動に驚ろかされるばかりだ。 「お客様、初回でそのような立ち振る舞いは困ります!」  お客の行為を咎めた守谷も、大瑠璃と同じで呆気にとられていたらしい。おかげで少し行動が遅れてしまった。 「別にいいだろう? 水揚げでもないんだし。この娼妓はこれまでにもたくさん客を取っているんだろう? それに俺は登楼代を普通の客より三倍は多く出している。娼妓は客に奉仕するのが務めだろう、違うか?」  お客はにやりと醜く笑うと次は花鶏を引き寄せた。そうかと思えば直ぐさま共襟に手を突っ込んだ。  これに驚いたのは花鶏だ。

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