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第拾八話・貴方のためなら死さえも厭わない。(三)

 花鶏は水揚(みずあ)げも済ませてはいない禿(かむろ)だ。こういう所作をまだ知らない。 「お客様、困ります!!」  花鶏を助けなければ――。  慌てた大瑠璃は不作法な態度のお客に意見した。  しかし相手はその言葉を聞き入れない。 「そう言うなよ、お前もこんな堅苦しい席なんてうんざりだろう? もっと気持ち悦くしてやろうじゃねぇか、なあ?」 「……っつ!」  大瑠璃ならばまだいい。快楽を仕込まれ、淫らな身体になった。けれども花鶏は違う。未だ綺麗な身体のままだ。  大瑠璃は男から花鶏を奪うと後ろ手に庇った。 「静かにしろ!!」  すると連れの男は突然立ち上がった。懐に忍ばせていた小太刀を取り出し、大瑠璃の首元に突きつけた。  刃物独特のひんやりとした冷たいものが大瑠璃の首にひたりひたりと押しつけられる。  大瑠璃は突然向けられた刃で恐怖に言葉を失い、口内に溜まった唾を飲み込んだ。 「そうそう、静かにしていろ。なあに、すぐに気持ち悦くなるさ。おっと差配人、お前も動くなよ? ここの看板を背負う大事な娼妓が使い物にならなくなっちゃ困るだろう?」  危機を察知した守谷が人を呼ぼうと畳から腰を上げたがそれを素早く見抜いた男は守谷を脅した。  守谷自身もこのお客なら何かやりかねないと判断したのだろう、男の言葉に従ってふたたび腰を下ろす。 「そうそう、それでいいんだよ」  でっぷりとした体格の男は花鶏の共襟に忍ばせる。 「……っひ」  花鶏の大きな目には嫌悪の涙が浮かび上がっている。

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