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第拾八話・貴方のためなら死さえも厭わない。(四)

「へぇ~、さすがは花街の娼妓だ。絹のように滑らかだ。他の見世じゃ考えられねぇほど気持ちいい肌触りをしているじゃねぇか」  にたにたと嫌な笑みを浮かべながら、震える花鶏を見下ろす。  花鶏は大瑠璃にとって弟のような大切な存在だ。  彼には自分と同じ目に遭ってほしくない。  だから大瑠璃は自分が傷つくのも構わず、自分に刃を突きつけている男のみぞおちに肘鉄を食らわせた。  蹲る男を尻目に、大瑠璃は花鶏を引き寄せる。 「大瑠璃さま……」 「花鶏には手出しさせない!」 「てめぇ! 娼妓の癖にお客に楯突く気か!」  ものすごい剣幕で睨んでくる。 「大瑠璃、花鶏を連れて逃げなさい!」  守谷は言うなり男に掴みかかった。  けれども男の方がずっと体格がいい。力の差は歴然だった。  あっという間に守谷の襟足を掴み取るとみぞおちに拳を食らわせた。  守谷は倒れ込むとそれっきり動かない。 「守谷!」 「さあ、観念するんだな」  下卑た笑みが分厚い口元に浮かぶ。  ――何か、何か打開策を……と考えるのに何も思いつかない。  大瑠璃はただ背後で震えている花鶏を庇うことしかできない。  下卑た笑いを浮かべながらにじり寄ってくる男から一歩、一歩と後退る。  自分の無能さに唇を噛みしめる。  花鶏の背が壁に当たった。  もう逃げられる場所がない。 「さあ、もう逃げられねぇぜ? そんなに大切にしてやがるなら、まずはお前から抱いてやろう」  太い腕が大瑠璃を引っ張り、胸元へ引き寄せられた。

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