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第拾八話・貴方のためなら死さえも厭わない。(五)
「――やっ!」
大瑠璃は必死に男の胸板を押す。
しかし男の力は強い。共襟の中へと手が這ってくる。
じっとりとした汗ばんだ感触が気持ち悪い。
「大瑠璃さまっ!」
花鶏の悲壮感漂う悲鳴が百合の間を覆う。
「逃げろ、花鶏!」
――自分は娼妓だ。お客に身体を開くのが当たり前。今までだってずっとこうやって開いてきた。
……それに、自分にはごろつき三人を相手に抱かれた経験だってある。
自分の身体はもうすっかり穢れきっている。
今さら操を守ろうなんて思わない。
だったらせめて、せめて花鶏だけでも無事でいてほしい。
下卑た笑い声で罵り、ただの人形のように寄って集って弄ばれた屈辱。
あの時のような思いを、彼にはさせたくない。
幸い、大瑠璃が肘鉄を食らわせた連れの男はまだ起き上がれない様子だ。蹲ったまま動かない。
花鶏が逃げるなら今しかない。
「お願いです! 俺はどうなったってかまいません。ですが、ですが花鶏はまだ水揚げをしていません。あの子だけは――どうか許してあげて」
「わかったわかった。だったらたっぷり楽しませろや」
大瑠璃は静かに頷いた。
「大瑠璃さま!」
これでいい。花鶏さえ、彼さえ無事なら――。
男が頷くと、大瑠璃は抵抗を止めた。
男はにやりと笑いながら帯を解いていく。
衣擦れの音が大瑠璃を陥れる。
こんな時にさえ思うのは、やはり間宮のことだ。
彼の眩しい笑顔も、掛けられた言葉も、頭から離れない。
大瑠璃は間宮を想い、唇を噛みしめる。
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