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第拾八話・貴方のためなら死さえも厭わない。(七)
ほろりと涙が零れ落ちる。
涙を見られたくなくて、男の後頭部を引き寄せる。
すると荒い呼吸が肌に触れるのを感じた。この男の吐息だけでも、間宮に抱かれた清らかな身体が穢れていくような気さえする。
唇を噛みしめ、嗚咽を漏らしそうになるのを堪える。
永遠に続くかのように思われたこの時は――けれども閉ざされた障子が勢いよく開いたかと思うと、スーツ姿の男三人が姿を現したことによって中断した。
「見つけたぞ、奥山 征一郎 ! 麻薬密売の容疑で逮捕する」
大瑠璃を組み敷いていた男は突然現れた三人を見るなり声を上げ、麩に向かって走る。
同時に、組み敷かれていた身体が解放された。その代わりに大瑠璃の身体が力強い腕に引っ張り込まれた。
苦痛と恐怖から解放された大瑠璃はすっかり過去の出来事に囚われている。華奢な身体が小刻みに震え、怯えるばかりだ。
けれども不思議なことに、こうして力強い腕の中に包まれていると、少しずつ冷静さを取り戻していく。その腕はあたたかく、安心させてくれるものがあった。
自分を抱きかかえてくれるこの腕はいったい誰のものだろう。
大瑠璃は襦袢の袖で、涙で濡れたその目を乱暴に拭う。するとそこには金色の髪をした端正な顔立ちの男性の姿があった。
「てる……あき……さま……?」
「大瑠璃、よかった無事か……」
大瑠璃が彼の名前を呼ぶと、太陽に負けない明るい笑顔で微笑みかけてくれる。
間宮はあられもない姿をした大瑠璃に、無惨に脱ぎ去られてしまった真紅の着物をそっと羽織らせてくれた。
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