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第拾九話・叶わない恋。(六)
「そこ、どけよっ!! 傷だってもう平気だし、別に危険なんてない」
今までだって、ずっとこうやって生きてきた。自分は娼妓だ。心を置き去りにして同性に身体を開くのは当たり前。それに自分は複数の男たちに強姦された経験もある。それを今さら危険に思うことはない。
傷を受けた身体だってどうなってもいい。
――のたれ死んでも構わない。
間宮が、好いた男性が側にいないのなら、死んだも同然だ。
「へぇ? 君は、乱れた薄手の肌着と潤んだ目をした状態で外出しても危険じゃないと? 男に襲われるのが好きなの?」
「ああ、そうだ! それが俺だ。あんただって俺との一夜を散々愉しんだろう? 俺の身体、そんなに悦かった? 抱いても孕む心配なんてないもんな、気楽でいいよな!」
言った瞬間だった。間宮の顔がいっそう険しくなる。いつも穏やかだった茶色いその目は見たことのない怒気を含んでいたことに大瑠璃は、はっとした。
その表情に恐怖を覚える。逃げ出そうとするのに間宮は隙を与えない。
「大瑠璃!!」
「やっ!」
気が付けば、大瑠璃の身体は褥に戻されていた。間宮に組み敷かれる。
見上げると、やはり彼の表情は険しく、優しい笑みのひとつもない。
大瑠璃には彼が怒る理由がまるでわからない。
怒りたいのはむしろこちらの方だ。彼女がいるにもかかわらず、薄汚れた娼妓を偽善で身請けするなんてどんなに酷い仕打ちだろう。思わせぶりもいいところだ。
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