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第拾九話・叶わない恋。(十二)

 違う。そんなはずはない。間宮が言っていることは嘘だ。お客が娼妓に対して、『愛している』なんて科白は当たり前のこと――。  床の上での戯れ言にすぎない。だから真に受けてはならない。  それなのに……。  真剣な眼差しで愛を告げられると、信じてしまいそうになる。  好いた人に愛を告げられて嬉しい。  だけどもし戯れ言だったら――?  慕情を抱く男性に裏切られたら――?  もう、大瑠璃には立ち直る術はない。  間宮を信じたい。でも、信じられない。  過去の出来事からすっかり臆病になってしまった大瑠璃の心の中では二つの感情がせめぎ合う。 「でも……俺は娼妓で……」 「うん、知ってる」 「男だ……」 「知っている。ついさっきも君に触れたし、それに何度も床を共にしたんだ。当然、君が感じる部分も、何もかもを知っている……」  大瑠璃が真剣に話しているというのに、間宮からは冗談めいた返事が返ってくる。  煽るようなその言い方に、大瑠璃の身体がかあっと熱くなった。 「――っ、話をはぐらかさないでっ!! だいたい色ものを囲うなんて世間体に悪いし、何より俺は輝晃様の子供を産めない……」  家を継ぐには嫡子がいる。彼と同じ性をもつ大瑠璃では間宮の役に立たない。 「輝晃さまは御曹司だって聞いた……」  楼主から聞かされた間宮の素性が嘘でなければ大瑠璃は足手纏いになるだけだ。  間宮の気持ちは嬉しい。けれどこの恋が本気な分、恐怖心もずっと大きい。  間宮の申し出を素直に頷けない大瑠璃は、ひたすら首を振り続けた。

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