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第拾九話・叶わない恋。(十六)
大瑠璃の目尻を伝って頬を流れる涙は悲しみでも苦しみでもない。あたたかな、優しいものだった。
「――でもそうか。てっきり僕は、君が気を失っている間に君を身請けしたからそれで怒っているのだと思ったんだが、そうか違うのか……僕に恋人がいると思って妬いてくれたんだ?」
クツクツと笑う声が大瑠璃の耳孔を攻める。
「本当よ。こっちはいい迷惑だけれどね」
間宮の姉はわざとらしい深いため息を吐いた。
「――っぅ……」
勝手に勘違いして勝手に傷ついて――恥ずかしい。
そう思うのに、間宮の笑い声を聞いていると心が安らいでいくのを感じる――。
大瑠璃は詰まっていた息をそっと吐き出した。
吐く息が震える。
それだけ大瑠璃が間宮を想っている証拠だ。
「輝晃さま……」
大瑠璃が恐る恐る彼に手を伸ばせば、力強い腕がしっかりと抱きしめてくれる。
そして――。
「愛しているよ、大瑠璃」
そっと、耳元で囁かれた。
この恋は叶わないと思っていた。
穢れきった自分は誰にも受け入れられず、人形のように扱われて生きていくのだと思っていた。
けれど――この男性は違う。
自分をずっと大切にしてくれる。
大瑠璃の中にある恋心がいっそう大きく膨れ上がる。
もう離れたくない。
大瑠璃はたくましい胸板に縋りついた。
目蓋が熱い。目からはひっきりなしに涙が込み上げ、頬を伝って流れゆく……。
「……っひ……っひ……」
その日、大瑠璃は間宮の腕の中でただひたすらにあたたかな涙を流し続けた。
《第拾九話・叶わない恋。・完》
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