143 / 153
最終話・ずっとお傍に――。(一)
「大瑠璃 が僕を庇って高熱を出している時にね、身請 けしたいと楼主 に話を持ちかけた時、彼は反対したんだ」
薄暗い部屋にはほんのりと明かりが灯っている。
大瑠璃は今、力強い腕に包まれ、たったひとつしかない褥に寝転んでいる。間宮 の姉が帰った後、大瑠璃が撃たれた傷を消毒し終えた彼は静かに口を開いた。
大瑠璃の隣では、身体を丸めた白猫が耳をひくつかせて眠っている。
静かな夜だ。
枕元に置いてある|有明行燈《ありあけあんどん》の光が、時折小さく揺れる。
そんな中で、間宮は話を続けた。
「楼主が君の身請け話に反対したのはけっして、人気の娼妓 がいなくなるからっていう損得の話ではなくてね、君が幸せになれるかどうかを考えていたんだよ。守谷 さんもね例外ではなくてね。君が僕を庇って銃弾を受けたということから少なくとも大瑠璃も僕に慕情はあるのだろうと楼主に掛け合ってくれてね、おかげで無事、気を失っている君を身請けできたんだ。君の禿 も、金糸雀 くんも皆、君の幸福を願っていた。君について心無い噂を流す人はいるかもしれないが、君はたしかに皆から愛されているんだよ」
――そして自分も大瑠璃を愛している。
間宮はそう言うように、大瑠璃を強く抱きしめる。
――あたたかい。
間宮の腕の中はこんなにもあたたかだ。
郭 にいた頃。当初はあんなに荒れていた大瑠璃の心が嘘のようだ。今――間宮に包まれているだけでこんなにも穏やかになる。
今まで生きてきて、こんなに穏やかであたたかな気持ちになったことは一度もない。
ともだちにシェアしよう!