144 / 153

最終話・ずっとお傍に――。(二)

 蘇芳(すおう)といた時ですら、こんな幸福は感じられなかった。  もしかすると、彼を想う気持ちは恋ではなかったのかもしれない。  ――いや違う。蘇芳を想う気持ちだって紛れもなく本物だった。  間宮に対する想いが蘇芳よりもずっと深いのだ。  この感情は狂おしく、そして相手を強く理解したいという気持ち。  恋ではなく、それよりもより強力で強固な感情――愛だ。 (――ああ、俺は輝晃(てるあき)さまを愛している……)  自分の気持ちをあらためて確認すると、目から熱い涙が溢れてくる。  大瑠璃は間宮に甘えるようにして広い背中に腕を回し、いっそう彼に縋った。 「俺……花街(はなまち)御職(おしょく)を勤めていた頃、好いたお方がいたんだ。その人も輝晃さまと同じように優しくしてくれてね。ずっと一緒にいようって言ってくれたんだ」  蘇芳はどのお客よりもずっと自分を大切にしてくれていた。大瑠璃を玩具のように扱わず、ひとりの人間として一緒にいてくれた。  けれど――。 「だけど――その人は博打に手を出して、絡まれたヤクザ風の男たちから逃げるため、簡単に俺を捨てて奴らに売った……」  悔しくて苦しくて仕方がなかったあの頃――。  礼儀も知らない男たちの手が無数に伸びてきて、身体を奪っていく……。  思い出せば胸が苦しくなる。その過去は長い年月を過ぎた今でも大瑠璃の心に深い傷として残っていて、きっと消え去ることはない。

ともだちにシェアしよう!