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最終話・ずっとお傍に――。(四)

 だからこそ、今まで誰にも打ち明けたことのなかった思いをこうして話すことができる。  胸の内にある想いのすべてを口にすることができる。  心に抱えていたどんよりとした重い荷物が流れ落ちたような、ほんの少しだけれど晴れやかな気分になった。  蘇芳との間に起こった出来事はたしかに辛く苦しいものではあった。過去を思い出せば今でも胸が引き裂かれるほどの痛みを感じる。  けれどもあのおぞましい一件があったからこそ、間宮と出会えることができたのだ。  過去にあったすべてを悪夢だと決めつけなくてもいいのかもしれない。今ならそう思えるから不思議だ。 「……ふ」  目頭が熱い。また涙が込み上げてくる。  けれどもこの涙は悲しみでもなければ苦痛のものでもない。  優しい、あたたかな涙だ。  大瑠璃の視界が歪む。 「だけどね、大瑠璃。僕はやっぱり蘇芳も秋山も許せないな。自分を守るために、僕にとって大切なかけがえのない君を売るなんて……」  間宮は口を閉ざし、ひとつ呻ると、また口を開いた。 「たとえ自分がどんなに苦しい立場であったとしても好いた子を大切にできない男は最低だ」  薄暗い上に涙で視界がぼやけている。間宮の表情は大瑠璃からでは探ることができない。けれど彼の声はいつもよりずっと低く、大瑠璃を抱き締めている腕の力が強い。だから大瑠璃を酷い目に遭わせた蘇芳や秋山に対して腹を立ててくれているのだと、大瑠璃は思った。

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