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第3話

 絶大な人気を誇る俳優が異国の地で奇禍(きか)に遭った。その手のニュースは、一大センセーショナルを巻き起こすにちがいない。  報道機関に巣食う人種は、総じてハイエナの類いだ。いわゆる、おいしいネタに飛びつく連中によって、お涙ちょうだいのストーリーが創られ、〝悲劇の主人公〟に祭り上げられるのは、真っ平だ。  (てい)のよい見世物にされるのは、橘の美学に反する。  熱愛を噂される女優と夜の街に消える模様を写真週刊誌にすっぱ抜かれることがあっても、ノーコメントで押し通してきた。  離婚騒動だの、不倫疑惑だの、私生活を切り売りして世間の関心をつなぎ止める卑俗の(やから)とは、一線を画してきたという自負がある。  ましてや自宅にガラス張りの〝檻〟を造り、そこでの世話に明け暮れていることは、マスコミにはもちろん、友人にも嗅ぎつけられることがないように細心の注意を払っている。  そう、橘怜門は目下、一羽の白鳥を猫かわいがりに可愛がっている。  暮れなずむ空のもと、羽ばたくように両腕を広げてスケートボードに興じるの姿に心を奪われた。日ごと夜ごと想いはつのり、熱情に突き動かされてさらってきた。  橘の声紋を識別させ、暗証番号を入力することで解錠および施錠が行なわれる〝檻〟に白鳥を閉じ込めて、ひと月あまりが経つ。  その白鳥は翼を持たないが、手足がすんなりと伸びた、みずやかな肢体が美しい。  乳首をいじってやると、よい声で啼く。  蕾を押し開いて挿れば、凛々しい(かんばせ)は屈辱にゆがむ。  内壁の一点で逐情に導いてやれば、黒目がちの(まなこ)はくやし涙に濡れる。  その白鳥は、岡崎佑也(おかざきゆうや)という。都内在住の大学生で、天涯孤独の身だ。  なるほど、事が露見すれば拉致・監禁の罪に問われ、実刑は免れないだろう。  だが、橘はこう思う。  珍しい蝶を見つけたら捕まえて、その美しさを展翅板(てんしばん)に永遠に留めずにはいられないコレクターさながら、わたしもまた、佑也を()でることに生き甲斐を感じるのだ──と。

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