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第4話

 力ずくで彼に君臨した行為をレイプと呼ぶなら、確かにそういった側面はある。  しかし佑也という純白の花を散らし、まぐわったあのひと幕は、あくまで愛情に裏打ちされたものだ。  極端な話、媚薬を一服盛ってやれば躰を征服するのはたやすい。  ひるがえって精神を屈服させるのは難しい。  そこに白鳥を愛育する醍醐味がある。  橘は右足を若干、かばいながら書き物机に戻った。最先端の技術を結集した義足とリハビリの賜物(たまもの)だ。事故に遭う以前と同様に颯爽と馬を駆る、とまではいかないものの日常生活に支障はない。  事実、佑也も橘が隻足(せきそく)であることに気づいた節はない。 「いや、たとえわたしが義眼であっても見すごすだろう。彼は、わたしを憎んでいるからな……」  ちくり、と胸が痛む。キャスター付きの椅子に腰かけて、背もたれに上体をあずけた。 〝檻〟の内部──ベッドを俯瞰する位置にCCDカメラを仕かけてある。橘は書斎にいながらにして、モニターを介して佑也の自然な姿をつぶさに観察できるという寸法だ。  そこに今しも、なかなか刺激的な光景が映し出された。  佑也がベッドに腹這いになった。心もち腰を浮かせると、後ろに自ら指を挿し入れようとしている。  橘は思わず口笛を吹き、椅子をすべらせた。モニターを据えてあるキャビネットまでずれていって、映像に瞳を凝らす。  佑也が、ぎこちない指づかいでギャザーを解きほぐすさまに見入るうちに、淡い笑みが口許に掃かれていった。  凄みさえ感じさせるそれに顔がほころぶと、男の色香が立ちのぼる。  数日前までの佑也は、点滴で栄養を補うほど衰弱しきっていた。最悪の場合は天に召されてしまうのではないか、と気を揉ませておきながら食欲が戻ってきたとたん独り遊びにふけるとは、許しがたい。  やんちゃな白鳥に、じっくりと教育をほどこす必要がある。  脚本を手挟(たばさ)み、ステッキを手にした。書斎を後にして、階上に設けた〝檻〟へと赴く──。

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