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白鳥の飼い方

 平凡な大学生でいたかった。  そう思って、佑也は唇を嚙みしめた。運命が激変するまでは、大学に通う合間を縫って就職活動とバイトに励む、ごく普通の学生のひとりだった。  この秋で二十一歳になった。物心がついてからこっち、聖人君子のように清く正しく生きてきたといえば嘘になる。  悪さは人並にやった。けれど、それは道ばたで雨ざらしになっていた自転車を失敬して帰ったとか、その程度のことだ。  自由を奪われ、尊厳を傷つけられ、プライドを打ちくだかれて。囚人扱いを受けなきゃいけないほどの悪事を、いったい、いつ働いたというのか?  アウターはおろか、下着すらも剝ぎ取られたったきりの素っ裸が、今やデフォルトだ。  それゆえシーツをトーガのように裸身に巻きつけて、しのぐ。歩けばシーツを踏んづけて、よろめく。  こんな、みすぼらしい(なり)を友だちに見られたら、いい笑い者だ。  勢いよくベッドに倒れ込んだ拍子に、じゃらり、と鎖が鳴った。その鎖の先の一端は、床に溶接された馬蹄型の金具へと続く。  もう一端は、カラビナ状の金具で足枷に()ぎ合わされている。  佑也を〝籠の鳥〟に、しからしめる足枷に。  人が寝入っている隙を見計らって時折、足枷は右足から左足へとつけ替えられる。  とはいうものの常時、足枷をはめられているために、足首はかぶれて掻いたあとがカサブタになっている。  もっとも〝檻〟に入れられた当初は、手錠もはめられていた。その、虜囚の象徴ともいえる手錠が外されただけでも、少しは待遇が改善されたといえるのか。  この蟻地獄から脱け出すのは、不可能に近い。  この劣悪な環境に順応しつつある。それが、怖い。佑也は、やるせなく嗤った。  仰向けに寝返りを打って、天井を睨む。炎天下、友だちと一緒にリクルートスーツを買いにいった夏の午後が、なつかしい。  何十枚ものエントリーシートを書き、それでも書類選考の段階ではねられる日々に挫折感を味わったとしても、男の慰み者にされて人生を狂わされるよりは遙かにマシだった。

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