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第7話

 ともあれ手負いの獣が巣穴にうずくまって傷が癒えるのを待つように、佑也もまた犯された日から数日間は飲まず食わずで過ごした。  ハンガーストライキに突入して橘に断固抗議する、というほど確固たる信念に基づいて行動したとはいえない。  飢えて渇いて死にたい──心の奥底で、それを願っていた。  ところが業を煮やした橘に点滴の処置をほどこされて、生き永らえてしまった。あるいは生への執着心が佑也を現世(うつしよ)につなぎ止めた。 「誰かがおれの行方を必死に捜してくれてて、この場所を突き止めしだい救け出しにきてくれる……なんてことはないよな」  ため息がこぼれた。両親は数年前に相次いで他界した。  恋人はいない。友人は少なからずいるが、佑也と連絡がとれないことを訝しんだからといって警察に捜索願を出してくれるとは思えない。  1Kとささやかな城だが、数ヶ月にわたって不在が続けば、大家は佑也が家賃を踏み倒して夜逃げしたものだと見なして、新たな借り手にアパートの一室を貸してしまうだろう。  八方ふさがりだ。佑也がこの世に存在したという痕跡は、そのうち跡形もなく消え失せる。また、佑也を生かすも殺すも橘の胸三寸にかかっている。  いいかえれば仮に佑也が獄死した場合でも、その死は闇から闇へと葬られる。  鳥肌が立った。その残虐な行為を愛の儀式とうそぶき、佑也が昏倒するまで佑也を嬲りつづけた橘のことだ。  彼なら遺体を始末するにあたって、佑也の亡骸(なきがら)をばらばらに切り刻むくらいのことは、眉一本動かさずにやってのけるように思う。 「あの野郎! マジにおれを飼い殺しにする気なのか……っ!」  拳をマットレスに叩きつけた。鎖をたぐり寄せて、がちゃがちゃ言わせた。  もちろん佑也がありったけの力を振りしぼってみたところで、簡単にちぎれるほどチャチな鎖ではないが。  鎖を放り出して寝そべった。時間は腐るほどある。ブランケットにくるまって、ふて寝を決め込んだ。  シーツがはだけて鬱陶しい。それを蹴りのけると、左半身を下敷きにする形に寝返りを打った。  それは就眠儀式のようなものだが、股の間に手を挟んだ。和毛(にこげ)が手首をかすめて、くすぐったい。  無意識のうちにペニスをひと撫でして、包皮に護られたそれを内腿の上に落ち着かせた。

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