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第16話

「データがある。印刷をやり直して来しだい、レッスン再開だ」 「ムカつく野郎だな。脚本だかなんだか知らないが、そんなものはクソ食らえ。おれが欲しいものは、ただひとつ。〝自由〟だ」    佑也はテーブルを平手で叩いた。そっくり返って足を組めば、図らずも穂先を揉み込む。  咲きこぼれるまぎわに捨ておかれる形になった花びらがよじれて、そのはずみに欲望の埋み火をかき立てられた。  つつ……と蜜がにじむ。股間の淡い(かげ)りが、天井灯に照り映える。  普段に較べると数段赤みを増して見える乳首が、つややかな肌に影を落とし、鮮やかな対比をなす。  佑也は椅子をがたつかせた。あわてて股間を両手で覆い、前かがみになった。  ところが橘がいち早く茎に掌をかぶせてきたために、悪あがきに終わる。 「さわるなって言ってるだろ……っ!」 「時と場所をわきまえずにサカるとは、若い証拠だな。いや、むしろマスターベーションの邪魔をするという野暮な真似をしたわたしのせいで、抑えが利かないのか。では、罪滅ぼしに手伝ってやるにやぶさかではない」 「大きなお世話だ。悪いと思ってるなら出ていけ、ほっといてくれ」 「わたしをつまみ出したのちに密やかに手淫に興じるのも(おもむき)があるだろうが、わたしという観客の存在なくしては面白味が半減するのではないのかね? なぜなら、きみは存外に見られると興奮する性質(たち)だとみえる」    と、喉の奥で笑うと、穂先をひと撫でする。  佑也の性感帯は、どこもかしこも、おあずけを食らった状態にある。それは、それのフォルムを戯れになぞる手の中で、嬉々としてみなぎっていく。  連鎖反応を起こしたように内奥がいやらしく収縮する。それを盾にとられて淫虐という演目の舞台の幕が上がることがあれば、橘の思う壺。  佑也は頭を左右に打ち振った。椅子を蹴倒して立ち上がるが早いか、横っ跳びに飛びのいた。

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