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第17話

「おれは、確かにあんたに飼われて身だ。けど、プライドまで売り渡したわけじゃない。強姦魔と狎れ合う気は、これっぽっちもない。好き放題におれをオモチャにしていいみたく、履き違えるな!」 「わたしの下で肉の悦びに打ち震えるきみは、たいそう愛らしかった。自瀆に耽っていたと疑われるのは心外だ濡れ衣だ、などと見え透いた嘘をつく駄々っ子には、それ相応の罰を与えねばなるまい。ベッドに上がりなさい」 「断る。ラブドールでも相手にしてな」  ゆらり、と橘がつめ寄ってくる。  事と次第よっては、これで佑也を打ち据えることも厭わない──そう暗に匂わせるような残忍な雰囲気を身にまとい、しかも床に対して水平になる形に持ち替えたステッキの先を掌に打ちつけながら。  橘が半歩迫りきたれば、佑也は彼を牽制するために前を向いたまま半歩後ずさる。  だが、佑也の行動半径は狭い。鎖の長さが許す範囲に限られている。  敢えなく壁に退路を断たれた。すかさず横にずれようとしたが、橘がそれに先んじて目の前に立ちふさがって行く手を阻む。  さらに王者の風格を漂わせる男は、塀を築くように佑也の肩越しに壁に片手をつく。  橘の双眸は、時として猛禽類のように鋭い光を放つ。その炯々として人を射る目で見つめられると、蛇に睨まれた蛙の気分を味わう。佑也は、金縛りに遭ったように立ちすくんだ。  ふっ、と橘が表情をやわらげた。彼はこころもち腰をかがめると、頭半分、背の低い佑也と目線の高さを合わせた。 「では、妥協案といこう」  何か魂胆があるにちがいない。そう思って、佑也は壁に張りついた。  一方、橘は歩哨のごとく佑也の眼前を行きつ戻りつする。小作りな顔が蒼ざめていくさまを堪能したあとで、内心の怯えを反映してわななく唇の結び目に親指の腹を這わせた。 「ここで、わたしを満足させることができれば生硬さが味わい深い〝(ほと)〟にさらなる教育をほどこすのは後日の楽しみにとっておくことにしよう。どうだ、悪い取引ではあるまい」    ふくみ笑いを交えて締めくくると、橘は(きびす)を返した。安楽椅子に腰を下ろすと、佑也を手招きする。

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