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第18話

 佑也は拳を固めた。やり場のない怒りに、全身がわなわなと震える。この恥知らずな男は、厚かましくもフェラチオをしてみせろというのだ。冗談じゃない……! 「あくまで我を張り通す気なら強硬策に訴えざるをえまい。きみをいまいちどベッドに縛りつけたうえで生殺与奪の権を握っているのは誰なのか、知らしめるまでのことだ」    さらりと言ってのけて、煙草を咥えた。  下肢にそそがれる視線が粘り気を帯び、視姦の色合いを深めていく。それを嫌って、佑也は身をよじった。橘が煙草を一本灰にする間中、迷いつづけた。  徹底抗戦を貫いて、その報いに犯られる。  あるいは、橘の足下にかしずいて口で奉仕する。  ただし、どちらを選んでも〝自尊心〟という領土の一部を橘に明け渡すことになるのだ。  もっとも佑也に選択の余地はない。三十三平米あまりのガラス張りの〝檻〟とは、すなわち橘が()べる王国なのだから。  橘が、左手を明かりに翳して五指を広げた。 「あと五秒だ。五秒以内に結論を出さなければ交渉は決裂したものと判断し、手錠およびロープを取ってくることにする。五、四……」 「待てよ! もしも、もしもだ。百歩譲ってその、ふざけた提案に乗ったと仮定する。あんたを口でイカせてやった場合はギブ・アンド・テイクっていうか当然、見返りはあるんだろうな」    橘は煙草の火を丁寧に消した。思わせぶりな間をとったあとで、テーブルに肘をついた。両手を組み合わせて、そこに顎を載せる。 「そうだな、健気にもスペルマを飲むまで尽くしてくれるというなら、ご褒美が必要だな。ふた言目には『欲しい』とさえずる衣服では、不服か」  佑也の顔が輝いた。 「だが、さしあたって下着を一枚だ。履修科目に沿って性技をひとつ習得するごとに靴下、カットソー、ジーンズと肌を覆うものを増やしていってあげよう。わたしとしては、自然の美を台なしにするという愚を犯すようで、はなはだ不本意ではあるのだが」    佑也は中指を突き立てて返した。精いっぱいの虚勢を張って、昂然と胸を張って安楽椅子に歩み寄る。  白と黒のタイルが互い違いに敷き詰められた〝檻〟の床は、市松模様を綾なす。そのタイル一枚分の距離を挟んで、橘と対峙した。  仁王立ちに足を踏ん張り、両の腰骨に手をあてがって、顎をしゃくった。

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